2025年から2026年にかけてのメモリ価格の急騰を背景に、「メモリカルテル」という言葉が検索されるようになりました。本ガイドでは、そもそもカルテルとは何か、2026年6月に米国で起こされた集団訴訟の内容、そして2000年代や2018年の過去の事例までを、公開情報に基づいて中立的に整理します。なお、2026年の件は現時点で係争中の「申し立て」であり、違法や有罪が確定したものではありません。
「メモリカルテル」とは — 3社寡占という前提
カルテルとは、本来競合するはずの企業同士が、価格や生産量を裏で取り決めて競争を制限する行為で、各国の独占禁止法(競争法)で禁止されています。「メモリカルテル」は、DRAMなどのメモリでこうした協調が行われているのではないか、という疑いを指す通称です。
背景にあるのが供給構造です。DRAMはSamsung Electronics、SK hynix、Micron Technologyの3社で世界シェアの約9割を占める寡占市場です。プレイヤーが少ないほど各社の行動が価格に直結しやすく、価格が急騰する局面ではカルテルが疑われやすくなります。ただし、寡占であること自体は違法ではなく、各社が独立して同じ判断(例えば需要に応じた減産)をしても結果的に価格が似た動きをすることはあり得ます。市場構造の詳細はDRAMメモリ 主要3社の競争構図を参照してください。
2026年6月の集団訴訟
2026年6月25日、米カリフォルニア州北部連邦地方裁判所に、Samsung・SK hynix・Micronの3社を相手取った集団訴訟が提起されました。原告は個人と中小企業を含む複数の当事者で、反トラスト専門の法律事務所Bathaee Dunne LLPが代理しています。
訴状の主な主張は次のとおりです(いずれも原告側の申し立てです)。
- 3社が標準的なDRAMの生産を意図的に絞り、市場を人為的に逼迫させたとする主張。
- その結果、4年間で約700%とされる価格上昇を招いたとする主張。
- AI向けのHBM(広帯域メモリ)への生産シフトを、DDR3・DDR4など旧世代DRAMの減産の「口実」に使ったとする申し立て。
原告側は、将来の価格協調の差止めと損害賠償を求めています。これに対しMicronは報道の中で、公正かつ法令を遵守して競争しているとして疑惑を否認し、争う姿勢を示しています。出典(Tom's Hardware)。繰り返しになりますが、これは訴訟の入り口であり、価格協調が事実と認定されたわけではありません。
過去のDRAM価格カルテル事件
「メモリカルテル」という言葉が繰り返し登場するのは、過去に実際の摘発例と、棄却された訴訟の両方があるためです。歴史を分けて見ると理解しやすくなります。
| 時期 | 内容 | 結果 |
|---|---|---|
| 1998〜2002年 (DOJ捜査) | Samsung・Hynix・Infineon・Micron・Elpidaなどによる国際的なDRAM価格カルテル | 複数社が有罪を認める。Samsungは2005年に3億ドル、Hynixは1億8,500万ドルの刑事罰金に同意。Micronは捜査協力で罰金を免除 |
| 2018年 (集団訴訟) | 2016〜2017年の価格上昇をめぐり、3社の協調を主張 | 地裁が棄却。2022年3月、第9巡回控訴裁判所も棄却を支持 |
| 2026年 (集団訴訟) | 標準DRAMの人為的な希少化と約700%の値上げを主張 | 係争中(申し立ての段階) |
つまり、2000年代には確定した有罪事例がある一方で、2018年の同種訴訟は退けられています。過去に前例があることと、今回の訴訟が認められるかどうかは別の問題です。出典(DRAM price fixing scandal / Wikipedia)
なぜ今「カルテル」と疑われるのか
2025〜2026年にメモリ価格が歴史的な水準まで上がった主因は、AIデータセンター向けの需要急増と、利益率の高いHBMへの生産能力シフトによる標準DRAMの供給逼迫です。各社がそろってHBMを優先し、旧世代DRAMを減産する動きが、外形上は「協調的な供給抑制」に見えやすいという事情があります。
ただし、これは各社が独立して収益性の高い製品を優先した結果とも説明でき、カルテルの立証には別途、協調の合意を示す証拠が必要です。価格上昇そのものの構造はDRAM価格はなぜ上がるのか、HBM移行の背景はHBMロードマップで詳しく扱っています。
日本企業・市場への含意
この問題は日本にとって二重の意味を持ちます。ひとつは歴史です。1990〜2000年代の当事者の一社だったエルピーダメモリ(旧NEC・日立系)は経営破綻を経て現在はMicron傘下にあり、日本がDRAM量産から撤退した経緯を象徴しています。
もうひとつは現在の立場です。今の日本企業は主にメモリの「買い手」として、PC・スマートフォン・サーバー・車載などで価格上昇の直撃を受けます。加えて、半導体製造装置・材料・テスト工程では日本企業が世界的に強く、メモリ各社のサプライヤーとして関与しています。NANDフラッシュではキオクシアが主要供給者です。全体像は半導体メモリ 完全ガイドを参照してください。競争法の観点では、米国の司法手続きに加え、日本の公正取引委員会など各国当局の動向も長期的な注目点となります。
関連ガイド
価格上昇の仕組みはDRAM価格はなぜ上がるのか、3社の力関係はDRAMメモリ 主要3社の競争構図、HBMの世代はHBMロードマップ、メモリ全体像は半導体メモリ 完全ガイドで解説しています。ガイド一覧はこちら。